「私選弁護費用と怪しいお金」の巻

 ゴールデンウィークも終わりましたが,皆様,心身お健やかでいらっしゃるでしょうか。

 当事務所では,法律相談につき,どうしても平日の相談が不可能という方には,土曜日や日曜日の法律相談を行っています。そして,ゴールデンウィークのような長期休暇の場合,日にちを決めて法律相談可能であることをこのホームページで告知しています。

 もっとも,例年,長期休暇の間は,法律相談を希望される方はあまりいらっしゃらないので,一応形式的な対応と考えていました。法律相談をご希望のお客様の中には,気が重い問題を抱えられている方もおられます。法律相談も大事ですが,緊急事態でなければ長期休暇を満喫されることも良いことです。それゆえ,長期休暇の法律相談対応日に事前予約が入らないことは,むしろ好ましいことだと思っていました(当方もラクということもあり。)

 さて,今年は,4月29日から5月5日まで相談対応可能としたのですが,例年通りそれ程相談希望は無いだろうと予想していました。ところがアニハカランや,ふたを開ければかなりの相談予約が来ました。気合いを入れ直して,法律相談に対応することとし,結果的に充実したゴールデンウィークを過ごすことができた気がします。

 このゴールデンウィークの相談可能日ですが,5月3日から6日まで,当方は,被疑者国選当番を他の弁護士とともに担当していました。この期間中,犯罪をしたという嫌疑を受けて逮捕後,さらに勾留された被疑者の方が,国選弁護人を付けたいという意思を示した時,当番である当方(またはもう一人の弁護士)に国選弁護人就任の打診が来るのです。刑事事件は,通常,被疑者として逮捕及び勾留され(されないこともあります。),勾留期間(通常は10日間以内ですが,やむを得ない事由がある場合にさらに10日間まで延長されることがあります。)中に,「起訴」されることで刑事裁判に付され,被疑者は「被告人」となります。かつて,国選弁護人は,刑事裁判にかけられた後の被告人にのみ付されていたのですが,2006年10月より,勾留されている一定の犯罪の嫌疑を受けている被疑者は,起訴される前でも国選弁護人の要求が可能になりました。そして,2009年5月21日から,被疑者国選弁護制度の対象となる事件が「死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役若しくは禁錮に当たる事件」という形で拡大されため,暴行や名誉毀損等の例外的な犯罪を除き,被疑者国選制度はかなり多くの事件が対象となっています。

 さて,裁判所から打診があると,国選弁護人として警察署や拘置所にいる被疑者,被告人に会いに行くことになります。そして,弁護活動が始まるのですが,ごくまれに「国選弁護ではなく私選弁護に切り替えて欲しい。」と言われることがありました。また,時には,日常の法律相談で,「家族が逮捕されたので私選弁護人に就任して欲しい。」という形で,私選弁護人への就任を依頼されることがあります。

 刑事弁護を私選にて行う場合,本ホームページの「弁護士報酬について」をご覧いただければお分かりいただけると思いますが,その費用は決して安くはありません。それでも,私選弁護人になって欲しいというのは,「国選弁護だと心配。」(要するに報酬が少ないのでまじめに弁護してもらえないのではないかという懸念。)ということがあるようです。当方が国選弁護人に就任した場合,どのような姿勢で臨んでいるのかについては,当方を知る方に聞いてもらえればと思うのですが,この私選弁護の打診が来た時,それが例え被疑者,被告人を心配する家族からの打診であっても,とある理由でお断りし,国選弁護での就任を申し出ることがあります。

その理由は,3つあるのですが,内1つは企業秘密です。そこで,2つ程お話しします。

 まず,事件の内容につき,「被害者がいて,被害弁償が必須であるのだが,その原資が不十分である場合」です。例えば,窃盗犯の弁護につき,被害弁償に30万円程必要だという見込みの時,被疑者やその家族が拠出できるお金が30万円だとします。そのような場合に,その30万円を弁護士費用に充てて,私選弁護人に就任させてもらった後,「…で,被害弁償はどうする?」ということになる訳です。実際,このようなパターンで,窃盗犯の方から,「費用は出しますから,私選弁護人に…」と言われたことが複数あり,いずれも「私への支払いより,弁償の方を心配したほうが…」,「私にくれるお金があるなら被害者に払わないといかんのではないですかい?」というやり取りになりました。

 もう1つの理由ですが,お金の出所が非常に怪しい場合です。捕まったドロボーやら詐欺犯やらが,潤沢にお金を持っている場合で,「弁護士費用は払いますから私選弁護でお願いします。」と言ってきた場合,いかがなものでしょうか。弁護士費用の出所は,おそらく犯罪で取得したお金,下手をすると私選弁護人就任を依頼されている事件で被害者からかすめ取ったりまきあげたりしたお金だったりします。こうなると,最早……。

 この後者の方ですが,犯罪内容が振り込め詐欺関係だったりヤミ金融だったりすると,「ムムムム……」ということになります。

 とある刑事裁判の話。むか?し,むかし,振り込め詐欺グループの中堅幹部が捕まり,とある弁護士に言いました。「先生,ボクは心から反省しています。一つ,罪滅ぼしをさせて下さい。お金を出しますから,今回の事件の被害者の方に弁償して欲しいんです。先生には苦労をおかけしますので,私選弁護人としてボクを助けて下さい。もちろん費用はお支払いします。」……そして,見事,豊富な弁償資金で,起訴された事件の被害者に数百万円単位で全額弁償を果たし,その成果を弁護士は裁判所で述べました。……で,あるが判決にて「被告人は,本件の被害者に被害弁償をしているが,そもそもその弁償資金も振り込め詐欺による収益金を充てたものに過ぎず,これを被告人に有利な情状とすることはできない。」

 こういった出所の怪しいお金による弁護士費用支払いというのは,何も刑事事件に限らず民事事件にも言えます。そういった場合,よく注意しなければならないのですが,実のところお金に困っていることで,スルーしてしまうということもあるのでしょうか。しかし,刑事事件の被害者や民事事件の相手方からすれば,「自分から奪ったお金で弁護士がついた」ということになるわけで,いかがわしいことこの上ないことでしょう。

 さて,先ほどの昔話。判決後,件の弁護士様曰く「何で,ちゃんと弁償したのに,それが良い情状にならないのか。何か裁判官,被告人に怒り過ぎだったし,納得いかん!控訴だ控訴!」

……まぁ,確かにどうせ良い情状に数えてもらえないならと開き直って弁償等一切しないということも悩ましいところですが,裁判官,他にも色々言いたいことはあったのではないでしょうか。それにしても控訴審の弁護士費用は……。