「私たちにお任せください!(?)」の巻(その1)

4月,新入学,新社会人の季節。

はるか昔,当方が法学部の大学1年生だった時,一般教養科目として現代哲学を選択していました。先生は現役の大哲人の方だったのですが,大哲人先生は,度々,「君たちのように法学などというくだらん学問に現を抜かしているようだから…」というフレーズを飛ばしていました。聞いていた当方も,根が単純なせいかもしれませんが,「そうだろうな?。」等と内心うなずいていたものです。

人間の社会,共同体の中で,最低限守らなければならない規範である法律は,世界の根本原理の探求者の立場から見れば,何でもかんでも自明の話になるのでしょう。

弁護士になったらなったで,社会内の紛争処理が主な仕事となります。どうしても相手方あっての勝負事となると,勝つために相手方を出し抜くということが必要となり,度が過ぎれば騙したり脅したりなどということになりかねません。そうこうしている内に,だんだん思考も浅ましくなっていき,仕事外でも,やたらと猜疑心が強くなったり,口頭の約束を守らなくなったりということもあるのかも……。大哲人先生に,今の自分を見てもらったらどのように言われるものやら。professer

話は変わります。今回のコラムのお題を見て思い浮かぶことはどのようなものでしょうか。大抵の人は,スーツを着たいかにもやる気ありそうな表情の(演技をさせられていると思われる)兄さんなりおっさんなりが,片手を握りこぶしにして,胸の前に固定している図なのではないかと。新聞の折込みチラシなりテレビCMなりでよく見かける図ではないでしょうか。

そのスーツを着た兄さんなりおっさんなりが,弁護士や法律事務所職員だったりすると,それは,十中八九「債務整理します。過払金回収します。」のチラシです。かつて,金融機関との借金について,利息制限法を超過する利息は無効,さらに過去の超過支払分につき返還義務があるという判例が出ました。そして,利息制限法に照らした引直計算をした結果,残りの借金の残額を上回る払い過ぎの利子が存在し,その払い過ぎ分を過払金として金融機関に返還請求するという過払金回収事件が大量に相次ぎ,数年前にピークを迎えました。最近では,あらかた取り返し尽くしたのか,過払金報酬で大儲け,過払金報酬で事務所維持ということも当方の周辺ではあまり聞かなくなっています。それでも,ここ長崎県北では,まだ過払金が眠っているのではないかということで,県外の法律事務所の方々が,握りこぶしお任せ下さい方式のチラシを投げ込んでいるようです。Businessman01

数年前の過払金問題のピーク時,当方に,度々このようなヤミ金相談がありました。ヤミ金とは,概ね業務として貸金業を行う際に必要である都道府県知事への登録をしていない貸金業者のことであり(無登録営業),登録の有無とは無関係に出資法で定める上限金利20%を上回る高金利を要求したりする貸金業者についても同様の呼び方をすることがあります。無登録営業や高金利貸付けとも重い刑事罰の対象であり,また,無登録業者であるヤミ金融業者からの貸付けについては,最高裁の判例で民法708条の不法原因給付とされ,実質的にヤミ金融から借りた金銭は,元本とも返済する必要がありません。ヤミ金融業者としては,当然,そのような事情(犯罪であること等)は理解の上でしているので,犯罪ではない真っ当な商取引であると被害者を信じ込ませたうえで,大抵トイチ(10日で1割の利息発生)やらトゴ(10日で5割の利息発生)の回収を図り,当然の結果,被害者が支払えなくなれば,被害者,その親族,勤務先への脅迫電話等の新たな犯罪や迷惑行為を仕掛けてきます。osatsu

ヤミ金融の説明が長くなりましたが,「度々このようなヤミ金相談がありました。」に戻ります。

すなわち,長年,正規の金融業者さんから借入れと支払いを繰り返し続けていたところ,支払いが厳しくなったので,ヤミ金業者から借入れをした。そして,ヤミ金業者から要求された利息を返せなくなったところ,脅迫電話が方々へかかってくるようになったので,県外の大手業者さんに電話相談したが,ヤミ金は地元の先生にと言われたとのこと。当方にて,もう少し事情を聞いてみると,「テレビのCMを見て」,「チラシを見て」,県外の大手業者さんに債務整理を依頼したところ,「ウチは正規の金融業者との交渉(とどのつまり過払金回収)はするが,犯罪業者との交渉はできない。」,「正規の業者さんとはウチが専門なので任せて下さい。ただ,ヤミ金については,地元の弁護士さんか警察に依頼した方が早い。」と言われたとのこと。「………ん?」という感じで,色々とその大手業者様に異議を申し立てたい部分もあるのですが,それはともかく,「勤務先にこれ以上電話が続くならクビにすると言われました。」という幼子を抱えた男性の切羽詰まった話や「何度も死ね,殺すと言われました。もう生きるのが辛くて…」というおばあさんの涙ながらの話もあり,「では,早急に介入しましょうか」ということになります。この時,当方への弁護士費用について,「大手業者」様が回収してくれた過払金が残っていたので,すぐ支払ってもらえるということにそれなりにあったのですが,中には,「受け取った過払金はもうありません。」というおばあさんがいました。どういうことかと聞いてみると,「受け取った過払金は,電話の業者さん(ヤミ金のこと)への利息支払いに全部充てました。支払わなくてもいいだなんて今初めて聞いたので…。何とか取り返してもらえないでしょうか…。」ということで,「オオテーー!!」とすっ転びました。……ま,気を取り直して,それなら今度は法テラス代理援助制度という手で…。tohoho

そして,今から1年程前だったか,テレビCMに債務整理専門を謳っている大手業者様に就職している知人の弁護士から電話がありました。何でも,今度初めてヤミ金業者に電話をかけるのでノウハウを教えろとのこと。

当方曰く「簡単で儲かる過払金回収だけをしてヤミ金は放置というニントモカントモなやり口を反省し,これからはちゃんと依頼人の利益を抜本的に考えるということになったんですね。いやーよかったよかった。」

知人弁護士曰く「いや,確かにそれもあるんですけれども,このところの過払金報酬の枯渇で,上の方から,ヤミ金の方も対応して報酬を得ることと,それとは別に,●●●●の分野を新たに開拓することという命令が来てるんですよ。ヤミ金の人とか今まで話したことがないし,同期に聞いてみたら,何でも田中さんがしょっちゅうやってて,1日に100人くらいと交渉したことがあるって聞いたんで。ほら…ボク,そういうのって向いてないじゃないですか。それで,ぜひ……」

そりゃメーワクだ!!