見習うべき職業意識の巻

コラムの原稿作りをする際,バックナンバーを確認するのですが,つい最近まで,年度初めだ年初めだとのたまわっていたものの,気づけばもう6月。しかし,平成25年気分がまだ抜け切れていないのか,これまで,書面を作成する度に,毎回「平成26年」と打ち込むと妙な違和感を感じています。これも寄る年波なのかと感じ,早いところ楽できるようにならんかしらんと夢想しているのですが,グレートデヴァイディング山脈のごとき雄大な仕事の山はいやはや何とも…。ajisai_01

これまで,このコラムでは,もっぱら民事裁判や刑事裁判等を中心に連載してきましたが,当方の仕事は,裁判関係の仕事ばかりではなく,公共の利益に資することを目的とした仕事もあります。 その中の一つですが,佐世保市の委嘱を受け,同市の「高齢者虐待防止ネットワーク」のお手伝いをしています。同ネットワークは,佐世保市内において,虐待を受けた高齢者の保護,及び,高齢者の介護を行う家族等の支援を行うため,虐待の予防,早期発見及び適切な対処を行うこと,また,その啓蒙活動を行っています。

 

平成18年4月1日,「高齢者虐待の防止,高齢者の擁護者に対する支援等に関する法律」,いわゆる「高齢者虐待防止法」が施行されました。この法律では,高齢者虐待について一定の定義づけのうえで,その防止のため,虐待を受けた高齢者の保護及び介護者支援のため,国,都道府県,国民,保健・医療・福祉機関が行うべき責務を明示しています。 佐世保市の高齢者虐待防止ネットワークは,同法の趣旨に従い設立されました。同市より委嘱を受けた方は,弁護士である当方以外に,医師,老人介護施設の経営者,社会福祉士等各先生方や公共機関の関係者がおられます。これら委嘱を受けた方が定期的に集まり,佐世保市の高齢者虐待防止対策運営状況の報告を受けて意見を述べています。また,時折,佐世保市に届いた虐待事案について,委嘱を受けた先生に具体的な解決に向けての助言を求められることもあります。

それ以外にも,実効的な活動として,実際に高齢者虐待の光景を目にする機会があり得る方々を対象とした勉強会があります。これは,主に介護サービス事業所や社会福祉協議会,地域包括センター,佐世保市役所等の職員の方々,またボランティア団体所属の方等が集まり,高齢者虐待についていかに対処すべきかを討議し学ぶ会です。当方は,委嘱を受けた立場として,度々この勉強会に参加し,討議の対象となった事案(あらかじめ関係者の実名等個人記録を伏せ,事件内容を適宜修正する等の事前措置を施しています。)について法曹の立場からの対処案を考え説明する仕事をいただいています。

この勉強会では,参加された諸先生の専門的知識を聞くことができるという点で,当方も大変ありがたく思っているのですが,特に感銘を受けるのはその勉強会に参加されている方々の熱意です。勉強会が開かれるのは,大抵,平日の夜7時ころですが,会場は常にほぼ満員です。一日のハードな仕事を終えられた介護士や高齢者福祉関連施設の従業員の方々が参加され,結論の出しにくい高齢者虐待対策というテーマに熱心に取り組まれています。 こうした参加者の高い職業意識の現れとも言える勉強会の光景ですが,これを見る当方は,とても清々しい気分になります。そして,この点見習うべき部分が多々あると,非常に気が引き締まる思いをし……等と書きながら,本コラムの冒頭部分を見直すと,「早いところ楽できるように…」とあるのを見てニントモカントモですが……。で,あるがこそ,勉強会に参加されている皆様とネットワークを日頃支えている佐世保市役所長寿社会課の皆様には敬意を表します。seminor

この高齢者虐待防止ネットワークでは,佐世保市民の皆様への高齢者虐待事案発見時の対処について,広報活動等もしています。せっかくの機会なので,当事務所のコラムに掲載させていただく許可を佐世保市役所長寿社会課よりいただきました。 「虐待」と言えば肉体的な暴力が典型的ですが,その他の虐待として,暴言による精神的虐待,年金の横取り等経済的虐待を高齢者が受けているような場合には,その高齢者の方はもちろん,虐待を見かけた方,また,いろいろな悩みやストレス,窮乏等により実際に虐待をしてしまっている方も含めて,

 

佐世保市役所長寿社会課・高齢者虐待防止相談窓口
  電話番号 0956-24-1111(代表)

 

に相談されることをお勧めします。場合によっては,当方にもその話が回ってくるかもしれませんが,その時にはよろしくお願いします。

なお,虐待をしていることを自覚している方の相談をお勧めする理由ですが,高齢者虐待防止法は,虐待者を処罰することを目的としているのではなく,実際に虐待に及んでいる方について,その原因を考え適切な支援を施すことにより,少しでも早い内に虐待状態を解消することを目的としているためです。例えば,介護が不可欠な親が身近にいる人がいたとします。そして,その人以外の兄姉等親族皆が介護の手間から逃げ出したため全てを押しつけられ破綻してしまい,そのストレスを親にぶつけるという事案において,介護を押しつけられたお子さんを処罰することは虐待の根本的解決に繋がりません。そのような事案において,「既に耐えられない状態になり,もう親に八つ当たりするようになった。」という段階で相談をすることで,虐待の深化を防止することが可能となるのです。 高齢者に虐待をしてしまう原因は様々ですが,その原因に共通するのは,自覚症状に乏しく,仮に自覚できたとしても是正が困難であることでしょう。

その結果,虐待が時の経過により甚大になることがあります。さすがに取り返しがつかない結果となれば,それは虐待防止法の問題ではなく,刑事上の暴行罪や傷害罪等の問題になります。そのような悪い結果を防止するためにも,高齢者の虐待と疑うような場合,虐待者が自分であっても他人であっても,お早めに上記連絡先に相談するのが良いでしょう。