「私たちにお任せ下さい!(?)」の巻(その2)(Ryo’s Colum)

 前回コラムにて,業務過多の疲労ゆえ,根本的にも成立していないダジャレをのたまわったという恥ずかしさから,今回のコラムは,「交通事故事件」を予告していました。というわけで,早速進めます。

 以前,「私たちにお任せ下さいっ!」という兄さんなりおっちゃんなりが出てくるCMについて,いわゆる過払金返還の話をしましたが(バックナンバー「私たちにお任せ下さい!(?)」の巻(その1)をご参照下さい。),同じパターンのCMとしては,自動車の任意保険があります。自動車運転中のトラブルに対して,ロードサービス万全等,確かにありがたく頼もしい配慮をして下さるのですが,CMからは見えにくい内輪の事情に携わっていると,「ソコじゃなくて,もう少し,あそこらへんを手厚くしていただけると助かるんですがねぇ…」と,テレビの前で寝そべりながらつぶやくことがあります。

 jiko_01その一例

 自動車の任意保険は,交通事故により人に損害を与えた場合,自動車や原動付自転車を使用する人に加入が義務付けられる自賠責保険では賄いきれない部分の損害を保証してもらうものです。この「賄いきれない部分」につき,加害者側と被害者間にて,話がまとまればよいのですが,金額につき合意に至らない場合(賠償額の内容である逸失利益の計算内容や慰謝料について開きがあるとか,ケガによる後遺障害の発生について争いがある等が理由です。),最終的に,損害賠償請求訴訟になります。訴訟となると,事故を起こしてしまった加害者本人が当事者となりますが,加害者本人にて訴訟を実際に進めるということは非常に困難です。そこで,弁護士に依頼することになりますが,あらかじめ任意保険会社にて,顧問契約等により弁護士さんを確保しており(時々そうでない場合もあるのですが…),その弁護士さんが加害者本人の代理人に就任してもらえるわけです。これで,加害者になっても取りあえず安心…のはずですが…。

 交通事故で,人を死傷させてしまった場合,前回コラムでの免許講習で教わるとおり,民事上の損害賠償請求訴訟だけでは済まされず,過失運転致死傷罪等の刑事上の処罰と免許取消等の行政処分を科されます。
 さて,過失運転致傷罪の被告人国選弁護事件が当方に回ってきました。交通事故の刑事事件の場合,まずは,被害者の方への弁償状況はどうかと被告人の任意保険会社へ尋ねます。特に,この事件では,被害者が強く下腿に衝撃を受けており,歩行機能と排尿機能に一部障害が遺ったという非常に気の毒な態様でした。被告人の前科前歴を考慮すると,服役歴はないとはいえ,実刑が下される可能性もあり得るところであり,被害者への賠償状況が気になるところです。
 というわけで,被告人の任意保険会社へ尋ねると,既に,示談交渉は暗礁に乗り上げており,被害者の方から訴訟にするという意向が示されているとのこと。この時点で,だいたい予想がつくのですが,やはり,被害者の障害について,その賠償評価に被害者側と加害者の任意保険会社の見解が大きく異なっているということです。
 当方より,被告人の刑事処分に影響すると思われるので,民事の方で,交渉等注意してもらいたいと任意保険会社に依頼すると,キビキビとした口調で,「その件については当社の弁護士に依頼していますので,そちらに聞いて下さい。」と返ってきました。その依頼されている弁護士というのが,まぁ,それこそ日本の某所に本店をデーンと構える大手事務所で,九州某所の支店に配属されているセンセ2人であられます。

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 …時間も無いので電話をかけてみると,若い弁護士様が出てきました。こちらの事情を告げると,
自称イケメン弁護士「あ,でもこの事件でしたら,実際の処理は,俺の後輩がやってますンでそっちに代わります。」ときて,さらに若い弁護士様が電話に出てきました。また,こちらの事情を告げると,
太っちょ弁護士「そうは言ってもですね。相手方の請求もかなり酷いんですよ。安易な妥協で前例を作るわけにはいきませんので!」
という感じ。この太っちょ先生の方は,典型的な駆け出し弁護士の余裕がないパターン丸出しだったので,まぁ,ここで,内輪モメする必要もなかろうと,適当に挨拶をして,後日直接協議の約束を取り付けました。

 間を置かずに,偶然,福岡高等裁判所での事件があったことから,大手事務所所属の将来有望少壮気鋭若手弁護士コンビの下へ赴き,民事の状況を確認しました(以下,敬称を省略します。)。
 冒頭から,
自称イケメン「田中さんって俺より年上ですけれども,期は俺の方が上っすよねー(つまり,当方よりも弁護士就任が早いということ。)。」
おっさん(当方のこと。以下同じ。)弁護士「そうですね。よろしく頼みますよ,先輩。」
自称イケメン「へー,田中さんって結構いろいろと分かってる人なんですねー。」
というやりとりがあり,当方の脳内で自称イケメン先生については早々に戦死扱いとして,戦力外にしました。交渉過程を見ると,案の定,被害者の神経を逆なでする表現を何度も用いており,当方が刑事裁判に響くと苦言を呈すると,
太っちょ「でも,こちら側で妥協できない部分は妥協してはならないと事務所から厳命されており…。」
と,いささか過呼吸気味の回答。
 以上のやりとりから,こちら側陣営の問題が浮き彫りになってきました。

 場所を変えて,当方にて,太っちょ先生に,
おっさん「これだけの大きな事務所に若くして入られたのだから,とても優秀なんですねぇ。当方なら,入れてくれと頼んでも門前払いでしょう。」
とカマをかけてみると,
太っちょ「いえ,自分なんか全然駄目です。先日も事務所で上司に書面出しても,『0点』と赤で書かれて戻ってきました。」
と予想どおりの回答が出ました。
 その赤マジックで大きく0点と書かれている書面を見せてもらいましたが,なるほど,この書面じゃなぁ…。主張と立証の区別がついていないし,まだ定まっていない事実を前提に別の事実積み重ねているし,だいたい同一の書面で,相互に矛盾する事実を堂々と記載しているのはどうかと……って,これうちらの交通事故の書面じゃん…。
 当方にて,問題点を指摘して,修正例を出すと,当初は,
太っちょ「でも,被害者といっても敵方なんですから,こんな妥協したかのような表記はよくないんじゃないですか。」
おっさん「表現が丁寧になっているだけで,実のところ言っているところは変わっていないでしょう?被害者への最初の対応と裁判官の目に触れる可能性をちょっと考慮してみれば…。」
太っちょ「なるほど…。」
おっさん「あと,そこ『停車』じゃなくて『駐車』ですよ。」
自称イケメン「あひゃひゃ…本当に間違っているじゃん。お前ほんとツカエネー。免許持ってんのかよー。」
おっさん「………」

 その後,太っちょ先生から,修正した書面があっさり上司の決裁を通ったという連絡があり,何でもかんでもうちの事務所へ電話で聞いてくるようになりました。「この忙しい時に…」と思いつつも,担当している被告人のことを考慮すると,邪険に扱うわけにもいかず,逐一指示を入れます。

太っちょ「……ということで,先日言われた件は,このままじゃどうしようもありません。どうすればいいのでしょうか~。」
おっさん 「泣き言なんが聞きたかないね。何とかしな。」

太っちょ「……ということで,不許可と言われましたが,どうしましょう?」
おっさん「……に決まってるでしょうが。合流してこれから一緒に行きますよ。40秒で支度しな。」
自称イケメン「あ,でも俺,週末東京に戻って合コンなんでー,今日は別の仕事片付けたいんスけどー。」
おっさん「アンタの都合なんかどうだっていいのよっっっ!!!」

 それにしても,何でこれ程の事件なのに,この無能弁護士コンビ…じゃなくて,まだ経験の浅い弁護士だけに事実上丸投げされているのかと不思議に思い,尋ねてみました。
おっさん「賠償額もまぁ少なく見積もっても1500万円,おそらく落としどころは2000万円にはなりますよね。これ程の金額なのに,なぜ,オタクらの上司が自ら担当しないんですか?私の国選弁護の報酬とは比べ物にならない程でしょう,オタクらがもらえる報酬?」
太っちょ「いえ,全然ですよ。この件で自分がもらえる歩合ですが,●円です。」
おっさん「は!?…なんでそんな低いんですか?」
 要するに,年間に任意保険会社が大手法律事務所に支払っている顧問料なり着手金なりは,それこそうらやましい額なのですが,そこは流石の大手というか,内部での分配についてはやはり格差社会なのだそうです。ここら辺,もう少し保険会社さんあり法律事務所さんなりに何とかしていただけるとありがたいのですが…。

 さて,刑事の第1回公判期日直前には,かなり示談条件が加害者側と被害者側で接近しました。しかし,太っちょ先生から,自分も自称イケメン先輩も,若干の差額を積み増すよう顧問先に直接言う権限が無いということだったので,部外者の当方にて押しかけ,無能コンビの上司と顧問先を説得すると言うと,
自称イケメン「マジっすか!?ホント田中さん暇っすよねー。」
太っちょ「…すいません,僕から上司にあえてもうひと押ししてみますんで。」
というブーデースタンドバイミー能力爆発イベントがあり,その結果,めでたく示談成立となりました。示談書の写しを当方の刑事裁判で提出して,無事,被告人も執行猶予をもらい,太っちょ先生も被告人から感謝されて満更でなかったようです。

今回の事件,ウチらの臨時チームで冒頭CMをやるとすると,
自称イケメン&太っちょ&おっさん「示談解決から訴訟まで,私たち専門の提携スタッフ弁護士が,あなたに任命された刑事国選弁護人をリーダーに迎え,最後まで親身にチーム一丸サポートします(キリッ)。」
……誰が,このCMの保険に好き好んで加入しますねん…。

 まぁ,流石にこの事件は極端な例であり,ほとんどの交通事故事件は,それこそ加害者側の弁護士さんが卓越した処理をされているのでしょう。そして,後日譚。
 がんばってもらった太っちょ先生と自称イケメン先生に,ご褒美として,当方の行きつけかつ接待用の焼肉屋さんへ連れて行きました。
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おっさん「……それにしても,隣の芝生は青いとは言いますけれども,あなた方,結構厳しい条件で大量の仕事させられているんですね。地方の一弁護士たる当方からすれば,オタクらの事務所はあれだけ煌びやかなのに実際には,蟹工船っぽいんですなぁ。さすがに,キャラメル片手に密室へなんてことはないでしょうけれども。」
太っちょ「……それは否定できません。」
自称イケメン「蟹工船ってなんすかー?」
おっさん「オタク東大卒でしょう?知らないんですか?」
自称イケメン「いや,なんか非常に貧乏な小説だってのは聞いたことはあるんすけれど,俺,そういう貧乏とか戦争とか嫌いなんすよ。だから近づかないようにしてるんす。」
おっさん「………」
太っちょ「それにしてもこの事件ですが,田中先生のおかげでとても勉強になりました。これからもがんばりますので何かあればよろしくお願いします。」
おっさん「アンタ今実にイイこと言った!佐賀牛ロース2人前追加くらい!」
自称イケメン「確かに,田中さん熱いっすよねー。それにしても,ここホント美味いっすよねー。佐世保って意外と人いますし,結構食えるもん多いですしー。これくらいの店連れてってくれるんなら,俺,今の事務所辞めたら田中さんとこで働いてやってもイイっすよー。」
 
…ホント,光栄のあまり涙が出そうであります。これでうちの事務所も安泰だ……。