家事事件とは、家庭内、親族関係内で発生する法律問題を取り扱う事件です。遺産相続、相続登記問題、遺言、離婚問題などが代表的なケースです。

1.遺産相続では、遺産の分割方法や相続人の権利をめぐるトラブルが発生することがあります

遺産相続に関するケーススタディをいくつか紹介します。

①遺言書がない中兄弟姉妹間で分割方法、生前の故人との関わり方をめぐって争いに
 父親が遺言書を残さずに亡くなったため、相続人である兄弟間で財産の分割をめぐって対立。特に不動産の分割が難しく、特定の不動産の取得をめぐっての激突や、逆に、特定の不動産の押し付け合い(空き家状態の不動産や休耕状態の農地、山林等)があり、相続人間の調整のため、現金、預貯金等の流動財産配分や代償金支払等の調整があるものの、やはり話がまとまらないということがあります。また、生前の故人との関係で、「えこひいきで財産を先にもらっていた」、「無償で介護に従事し、また、生活費等のため仕送りをする等貢献していた」等の特別受益や寄与分の主張がなされることもあります。
 これらの遺産相続に関する紛争については、「法定相続人の確定」、「遺産と債務の確定」、「各相続人が相続するべき金額の確定」、「具体的な分割」等、順番に定めていくことになります。そして、相続人のみでの話合いによる合意が難しい場合、家庭裁判所での遺産分割調停手続という裁判所での話合いの手続へ移行します。

②生前の推定相続人による使い込み、死後の相続人による使い込み
 相続争いの場面で、被相続人の生前、または、死後に、財産が無くなっているという主張がなされることがあります。それが生前のものであれば、消えた財産について、相続財産に含まれるのかどうかが問題となり、死後のことであれば、使い込まれた遺産の取戻しのため不当利得返還請求を交渉や訴訟等で求めることを検討します。生前のことであれば、「それは自分は知らない」、「被相続人自身が使ったもの」等の反論を受けることがあり、死後のことであれば、「相続財産の維持費用や葬儀費用として使った」等の反論を受けることも考えられます。「誰かが使い込みに及んだ」、または、「自分が使い込みをしたと言われた」という場合、その見通し等について、慎重な熟慮を要する場面です。 

③相続放棄手続、限定承認手続
 被相続人につき、プラスの財産は無く、債務だけがあるという場合、法定相続人にて債務を承継したくないという時は、家庭裁判所での相続放棄手続を行う必要があります。相続放棄手続は、決して珍しいことではありません。ただし、「自分は親の借金は引き継ぎたくない」と宣言するだけでは認められず、家庭裁判所にて相続放棄申述を行う必要があります。また、自分が相続人になったことを知った時から3か月以内に行う必要があること(いわゆる熟慮期間)、プラスの財産を取得した後では認められないこと、自分が相続放棄をした結果被相続人の債務が別の親族へ相続されること等の注意を要します。現実にては、プラスの財産しかないと思って自身の相続を承認したり、3か月放置したりした後に、借金が見つかったということで慌てることもあります。いずれも不安等あれば、法律相談等ご検討下さい。例えば、相続放棄をするかどうかを決めるため、3か月の熟慮期間を家庭裁判所に伸ばしてもらう手続もあります。
 限定承認は、遺産につき、プラスの財産もそれなりにあるが、マイナスの債務もそれなりにあり、相続した方が得なのかが最後まで決まらないという場合において、「相続財産の範囲でマイナスの債務を支払いたい」とする手続です。限定承認は、手続としてはそれなりに有名ではあるものの、実際に申し立てられている件数としては、相続放棄よりも圧倒的に少ないとされています。その理由としては、放棄をしたい人だけが家庭裁判所での申述のみで済む相続放棄と比較して、限定承認の場合、相続人全員での申立てを要し、さらに、家庭裁判所での申立後、官報での公告、債権者の確認や弁済等手続が複雑であり、その分費用も嵩むためです。限定承認が有効であるかどうかの判断については、相続人の意向、費用対効果の考慮が必要であり、その上で、そもそも限定承認手続の代理を弁護士が受けてくれるのかどうかという初動段階での確認も要すると思われます。

  
2.最近、遺産に関する相談として増えているケースとして、相続登記の問題があります。遺産相続が行われた際、不動産を取得した人は、登記を変更するべきところ、費用を惜しんだり、実際の登記変更手続についてよく分からない等の理由から、そのまま故人の名義で放置しているということがあります。特に実害がないとして放置していたところ
①さらに、世代が代わり、法定相続人がどんどん増えてしまった
②不動産を売ろうと考えたが、登記変更していなかったのでできなかったという事情から、何とかしなければという場面になることがあります。
 特に、相続登記につき、2024年4月1日から、相続人への登記変更等の義務化がなされたこともあり、このことを機会に、相続登記を何とかしようと考えることもあるかと思います。相続登記問題の解決は、登記名義人の死亡から年月が経てば経つ程、法定相続人が増えることとなります。多数の法定相続人の確定の上で、その法定相続人全員に対して、移転登記未了の遺産である不動産に関する提案を行うことがスタートとなりますが、その提案まで調査のための時間を要することが多いです。ようやく法定相続人が確定したと思いきや、「自分は関係ない」、「関係したくない」として、協議を門前払いされることも間々あります。そのような場合、遺産分割調停へ移行する等しての対応となります。

3.遺言は、生前に財産の分配を決める大切な書類です。
 遺言は、上記1及び2のような相続争いにならないように備えて、被相続人にて生前に財産の分配を定めておくための書類です。法定相続人である血族以外の人への贈与(遺贈)も定めておくことが可能です。また、法定相続人に該当する者の中で、著しく自分を侮辱したり、虐待した等の者がいる場合、その者について、完全に遺産相続をさせないとする「廃除」も定めることができます。それから、遺言内容が細部まで行き届いているという場合、その遺言内容の実現のため、遺言執行者を定めておくことも可能です。
 遺言は、比較的簡略に作成できる自筆証書遺言、紛失のリスクや後日相続人が無効等申し立ててくるリスクに備えることができる公正証書遺言等の種類があります。自筆証書遺言の場合、有効となる要件、紛失のリスクへの備え(法務局での遺言補完制度)、開封時の検認手続の必要等、知っておいた方がよいことがあります。

4.離婚問題では、財産分与、親権、養育費などの重要な決定事項があります。
離婚問題についての具体的な対応は以下のとおりです。

①方式としては、協議離婚⇒調停離婚⇒裁判離婚の順を追うことになります。「離婚をすること」と「子どもの親権、養育費、財産分与等の条件」が合意するのであれば、協議離婚にて終わりとなりますが、これらにつき合意できないという事情があると、調停離婚、裁判離婚へと移行することになります。

②「離婚をすること」の合意
 夫婦が、離婚をすること自体につき合意しているのであれば、離婚する、しないが問題にはなりません。しかし、一方の配偶者が離婚を拒絶している場合、その拒絶者に対して、離婚を押し通すためには、民法第770条の有責事由(不貞行為、悪意の遺棄、3年以上の生死不明、回復の見込みがない強度の精神病罹患、その他婚姻を継続し難い重大な事由)の主張、立証を要します。逆に、離婚を拒否する側からは、自身に有責事由が無いこと等防御に努めることになります。

③親権争い
 離婚の際、未成年の子がいる場合、離婚後のどちらの親が親権、監護権を取得するかを決める必要があります。残念ながら合意に至らないという場合、親権指定について、離婚調停等の際、協議し、または、審判を受けることとなります。親権取得を主張するにあたり、有利な事情や不利な事情を熟考する必要があります。なお、離婚後の親の子に対する責任等明確化を図ることを目的とする民法等改正が2026年5月までに実施されるところ、同改正には、父母両方が親権を行使する共同親権が規定されています。

④離婚給付(養育費、財産分与、慰謝料、婚姻費用)
離婚問題に付随して、夫婦の一方から他方に対して金銭が支払われたり、その他の財産を分与するということがあります。養育費は、親権または監護権のみを取得して、離婚後に未成年の子を育てることとなった場合、相手方元配偶者に対して、子の養育のためにかかる費用の負担を求めます。金額については、支払うを受ける側、支払う側それぞれの希望もあると思われますが、基本、平成30年度司法研究に基づく養育費・婚姻費用算定表によることが多いといえます。すなわち、離婚後の親のそれぞれの年収を基本的な材料として、ほぼ機械的に算出するものです。

 財産分与は、夫婦の離婚の際、婚姻後に蓄積した資産の分割、また、債務の分割を行います。「夫名義だから夫のもの」、「ずっと専業主婦だったから財産分与は無い」ということはなく、名義如何に関わらず、婚姻後に蓄積した資産を等分分割することが基本線となります。また、住宅ローンが残っている住居と宅地については、全体としてどのように財産として取り扱うのか、売却とオーバーローンの問題、支払済みの住宅ローンについて資産とみなすのか等の問題があります。財産分与について争いとなった場合、「とりあえず離婚して、財産分与は後回しにする(財産分与が離婚成立後、2年間放置していると消滅時効が成立して請求できなくなることに注意を要します。)」、「離婚調停、離婚訴訟等で財産分与についても決着をつける」という選択となります。後者であれば、夫婦共有財産を調査し、それが確定した後、具体的な分割を協議するという算段になります。

 慰謝料は、離婚に至る原因につき、片方の配偶者の有責事由(不貞や家庭内暴力等)による場合、その被害を受けた配偶者から離婚に際して請求するものです。厳密には、その有責事由自体から被害を受けたとする慰謝料請求と、「離婚を余儀なくされた」ことを理由とする慰謝料請求があります。典型的な類型としては、「不貞行為に及んだこと」を理由とする慰謝料ですが、この場合、請求先として、配偶者とその不貞相手の両方またはどちらか一方の選択、金額算定等、考えるべきことがあります。慰謝料については、時の判例が、その認定、精神的被害の算定について、一定のメッセージを投げかけていることがあり、それを把握することも重要です。

婚姻費用は、厳密には離婚と併せて決められるのではなく、離婚に備えて、夫婦が別居している場合に、各別居世帯の構成、夫婦それぞれの収入で、養育費に準じた方法で機械的に算出されます。よく、離婚の協議がもつれ、離婚調停へ移行する前後に、婚姻費用分担を請求する調停を提起する等しています。

⑤年金分割  
 離婚に伴う年金分割は、その内の一類型である合意分割制度が2007年4月1日に開始されました。開始当時は、離婚制度におけるかなり目玉の改正でしたが、久しく経過しており、夫婦だけでの協議離婚の場合でも、自発的に年金分割が合意されていることが珍しくないと思われます。年金分割は、合意分割、及び、3号分割(平成20年4月1日以降に専業主婦または主夫だった場合に利用可能、双方の合意なしで自動で50パーセント分割)があります。いずれも離婚した日の翌日から2年以内に請求しなければならない(2年以内であっても相手方が死亡の場合、その死亡日から1か月以内に請求必要)ことに注意を要します。